シルバーウィークにご一緒させていただいた長月シンフォニエッタのコンサート、今回で3回めの共演となりました。このオーケストラは祝祭オーケストラの要素が強く毎回出演されるメンバーが違うので一概には比較できませんが、今回は特に密度の高い演奏になったように思います。
今回一緒に取り組ませていただいた曲は、 アイヴズ:答えのない質問 モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 の3曲でした。 アイヴズの作品は、1973年にバーンスタインがハーバード大学で行った講義に取り上げられた作品で、この講義のDVDを15年くらいまえに入手して何度も見ていたので、私にとってはとても馴染みの深い作品。これを演奏できる機会をいただけるなんて思ってもみなかったので、とても嬉しかったです。貴重な機会をいただきありがとうございました。 弦楽器が表す「ドルイド僧の沈黙」を背景に、トランペットが「存在についての永遠の問いかけ」を行い4本の木管楽器がそれに対する応答をするという内容の作品です。木管楽器の返答が曖昧なものから、より複雑で感情的なものに変化していきます。まるで語りあっているかのように緻密に書かれた素晴らしい作品です。 そして、モーツァルト、ベートーヴェンの名曲へとプログラムは続きました。 どの作曲家の作品も明確な語法をもって作曲されていますが、モーツァルトの作品には、 cantare recitando(語りながら歌う)、 cantare(歌う) recitare cantando(歌いながら語る) この3つの要素が多分に含まれており、聴衆に巧みに語りかけてきます。 本来、recitare cantando(歌いながら語る)は、オペラのレチタティーヴォのことを表す言葉ですが、静的な音形と動的なリズムで音楽を進めていく手法は、さながらrecitare cantando(歌いながら語る)のようで、オペラを得意としていたモーツァルトらしさが出ていると思います。 プログラムの最後は協奏曲。通常協奏曲はプログラムの真中に配置されることが多いですが、このベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、規模が大きく演奏時間が長いので、プログラムの最後に配置されることが多いです。 協奏曲ではソリストが技巧的な音楽を繰り広げます。 演奏する音の数が多いということは、それだけ言葉として語りたいこが多いと私は捉えております。より強く語りたいところでは、そこに重点をおき拍をはみ出すこともあります。その背景で、語りを生かしながら、背景を作りドラマを進めていくのが、オーケストラ。 おっ!まさにオペラと同じです。 聴衆が、その時の個々の感情、人生のバックグラウンドにあったイメージを膨らまし、それぞれの感受性で受け止めてもらう。 これが言葉を使わない器楽曲の最大の魅力であると思います。 今回ご一緒させていただいたヴァイオリニストの小野瑞季さん。 彼女の力強く、そしてまた繊細で美しく、多彩な響きで語られたベートーヴェンの言葉たちは、オーケストラを揺さぶり、聴衆の心を惹きつける素晴らしい時間へと紡ぎあげられました。 そして、ソリストの語りをうまく引き出すかのように、ドラマを作り盛り上げていただいた長月シンフォニエッタの演奏も実に巧みで素晴らしかったです。 この30人に満たない小編成の室内オーケストラは、名手揃い。美しい響きや渋い響き、いろいろな表情を見せる弦楽器奏者、ソリストとしてもアンサンブルとしても卓越している管楽器奏者、そしてオーケストラの響きを見事にまとめあげるティンパニ奏者。 演奏にも演奏者の人生のバックグラウンドは多分に反映されます。 様々な分野の人生のステージで活躍されている愛好家の方々の集まりだからこそ生まれる「人生の旨みと渋み」が詰まった演奏、素晴らしかったです。 小野瑞季さんとは以前シベリウスのヴァイオリン協奏曲をご一緒させていただき、4年振り2度目の共演となりました。目を見張るような成長でダイナミックな演奏をしていただいた小野さん、彼女がコンサートミストレスをつとめる慶応ワグネルソサイエティオーケストラのコンサートも、きっと熱演へと導かれることでしょう。 この濃密な時間をご一緒させていただいた皆様に心より感謝しております。 ありがとうございました。 そして、これからも「より語る音楽」を届けていきたい。 長月シンフォニエッタ第5回演奏会 2016年9月18日(日)浜離宮朝日ホール 曲目: アイヴズ/答えのない質問 モーツァルト/交響曲35番「ハフナー」 ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 アンコール/真田丸のメインテーマ ヴァイオリン独奏:小野瑞季 管弦楽:長月シンフォニエッタ 指揮:福井雄一
by dirigent-yuichi
| 2016-09-26 10:37
| 音楽
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